『週刊俳句』第60号・第61号に掲載の「サバービアの風景」について、秀彦さんが記事にしてくださった。
無門 この鼎談記事について秀彦さんは批判的・否定的。それはそれで当事者(鼎談のメンバー)として受け止めさせていただいたが、そこで提示されたいくつもの疑義・疑問について、私のほうで、逆に疑問が生じたところがあるので、記しておこうと思う。あくまで個別的な部分への応答だ。反論や補足、あるいはこちらからの疑問ということになるが、なるべく言い訳にならないようにしたい。 また、以下のことは、当然ながら私個人が考えたことで、猿丸さんや信治さんは、また別のお考えをお持ちだろう。鼎談のあいだも、われわれ3人には、随所で見解のズレがあった。それは明確にではないが、あの鼎談記事にも現れている。 このサバービア俳句という概念・アイデアは、私にとってはかなり微妙で複雑。命名者・言い出しっぺの猿丸さんが、何を考えているかが、まず問題で、鼎談の眼目もそこにあった。私としては、ああ、なるほどと了解できた部分もあるし、そうでない部分もある。鼎談を猿丸さんオリジナルの見解へと収斂させればよかったのかもしれないが、当日は、技術的な問題(話題の流れをコントロールできなかった)やら、人情的な問題(だって、いろいろ方向に話が行くほうがおもしろいんだもの)やらもあって。 そこで、秀彦さんの記事。前から順に(もう一度言うが個別的に扱う) 1)昭和俳句、平成俳句という括り 「昭和」「平成」という俳句のくくり方が、ぼくにはどうしても納得できなかった。ぼくには昭和俳句とか平成俳句というものが存在しているとは思えない。(秀彦さん・以下同) 猿丸さん・信治さん・私が、「平成俳句」という語を、平成期に生まれた俳句全般といった意味に用いていないこと、また「平成俳句」というカテゴリーを無条件の前提として話を始めているわけでないことは、読んでいただければわかると思う。 猿丸さんは、岸本尚毅、小澤實、田中裕明といった作家の登場を挙げ、また平井照敏の見解も引いた。「平成俳句」についての必要(最低限かもしれないが)な説明は提示できている。 参考: ことばによる、ことばの俳句・榮猿丸 一方、「昭和俳句」は、鼎談の流れでは「平成俳句」のカウンター的な捉え方になるが、もちろんのこと「昭和に書かれた俳句」という一般的な意味で用いているのではない。どこかに既存の「昭和俳句」概念に引っ張られている部分はあり、その引っ張られ方、つまり「昭和俳句」についての理解が三者三様になっている点はあるだろう。それが鼎談記事の大きな傷かもしれないが、かといって「昭和俳句」とは何かを三者できっちり詰めるという作業は大変である。ズレを感じながら話を進めることができるはずだ。 秀彦さんは「俳句のくくり方が、ぼくにはどうしても納得できなかった」とおっしゃっている。納得するか否かは個人の見解で、それでよい。しかし、「ぼくには昭和俳句とか平成俳句というものが存在しているとは思えない。」という言い方は、私にとって不思議。 サバービア俳句についての諸々は、「これこれこういうものを平成俳句と捉える(ここを仮定と呼んでさしつかえない)。とすると、これこれこういうことが言えますよね」というのが、今回の話なのだ。繰り返すが、所与の概念・範疇として、話が始まっているのではない。 私のなかには「平成俳句」と捉え方はなかった。だが猿丸さんの前掲論考によって、また対談(猿丸さん・信治さん)や今回の鼎談によって、その把握をひとまず了解した。 平成俳句は、実体ではなく把握(概念)だから、それが存在すると思うか思わないかという話ではない。話者の提起/仮定に、ひとまず乗るしかない。「平成」という言い方が嫌なら「アフター1990俳句」でもいいのだ。 2)表面 この「表面主義」というのは天気氏の命名らしい。 天気氏曰く《俳句史の流れなど、まったく知らずに私が勝手に名づけたわけですが、どこかに接点があることに最近になって気づきました。》 さて、そこで気になることが二点ある。 ここでいう「俳句史の流れ」とはどの時代からの流れを言うのであろうか。 秀彦さんの「気になる」点については、これまでとちょっと毛色の違う反応になってしまう。 そんなご無体な! 私が知らない(知識がない)といっている「俳句史の流れ」について、「どの時代からの流れなのか?」という疑義は、喩えるなら、「クルマの知識はないんだけれど」と言う人に向かって、「おまえが知らないと言っているのは、エンジンのことなのか、環境規制のことなのか、それとも近年の業界再編のことなのか、いったいどれを知らないと言っているのだ?」と問いつめるようなものではないですか。譬えがヘン? 「まったく知らずに」はやや誇張だが、さしたる知識の背景もなく「表面主義」と名づけたことは確か。 そして「接点がある」とは具体的に何なのか。 大事なことを述べているはずなのだが、そこが見えてこない。 接点が、それほどまでに見えないとは思わなかった。 内面(精神/形而上=メタフィジカル:昭和的) ではなく 表面(モノ/形而=フィジカル:平成的) おおざっぱな(あくまで私個人の)把握では、この対照が、鼎談を貫いている(繰り返すが、私個人の理解)。話すうちに自分が戯れで名づけた「表面主義」が、サバービアという話題(昭和的俳句から平成的俳句への変化)に大いに繋がると思った。 だから、「接点」が見えないと言われると、この鼎談全体が届いていないと落胆するしかない。届かない・伝わらないことに、もし責任の所在を求めるなら、もちろん、私や私たちにあるのだが。 3)象徴 句の鑑賞姿勢の例として《飛行船であろうとバナナであろうと、長いものが出てくれば、なんでもかんでもファリック(陰茎)シンボルに解釈してしまうような読み方》を天気氏は挙げているが、そんな子どもじみて論外なまでに類型的な読みを俳句の象徴性の問題とするのは強引にすぎるだろう。 「子どもじみて論外なまでに類型的な読み」。これは現実に存在するから挙げているわけで、挙げるなら典型例がいいので、「子どもじみた類型」を選んでいる。象徴論の「なれの果て」として、こうした類型を例示することに、私自身、問題とは感じない。「象徴論的読み」の「豊かさ」を論じるなら、戦術的にまちがっているが、おわかりのとおり、俳句に象徴論を持ち込むことを良しをしない考えなのだ。 ─────────────── 個別的・具体的な部分で、気になったところについて、反論・補足させていただいた。ただ、こうした箇所が解決したとしても、課題はいろいろ残るだろう。例えば「モノ」というテーマ。 ただ、「モノに託す」という一文についても、猿丸さんと私で食い違うことは、当該箇所(前篇の中盤あたり)で明らかだ。 「モノに託す」という言い方にこそ、私は、昭和の香りを感じている。ざっくりいえば、モノを句の素材として詠み込みながら、気持ちを伝える。モノは手段(乗り物)で、目的(載せる荷)は「気持ち:精神/形而上」ということだと私は解している。 猿丸さんの場合、モノにとどまる、モノの先(内奥etc)に行かない、という意味で「モノに託す」。意味が違ってきていると言っている。 これは、経路が違うだけで到達地点は同じなのか、違うのか。その確認は、私にとってこの先の作業となる。 まあ、そんなところで。 最後に、私が表面(モノ/形而=フィジカル:平成的)と思う句をひとつ。一例として。 鳥の巣に鳥が入つてゆくところ 波多野爽波 『鋪道の花』 所収。昭和31年wの句集です。
by tenki00
| 2008-06-28 12:14
| haiku
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