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アフター両吟歌仙 第一夜

昨年11月から12月にかけて四童さんと巻いた両吟歌仙について、四童さんと二人、チャット(google chat)で振り返りました。当初は『豆の木』第11号に掲載する予定でしたが、事情が変わり、blogエントリとしてその模様をお伝えします。第1回の今回は第一夜(07年1月10日)。

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両吟歌仙「秋の水」

   噴水として空にあり秋の水       四童
     ランチに添へし梨の一片      天気
   引力のややいびつなる月の出て      童
     夜学の床に落とす消しゴム      気
   ラグビーの強き会社でお茶を汲む     童
     鉄の時代はいまはむかしの      気
 ウ 電源を切るの切らぬの大騒ぎ       気
     下着売場の光るマネキン       童
   おもだちがよくて無口なひとがいい    気
     北の酒場の食糧事情         童
   ほらそこをブリヤサヴァラン氏の馬車が  気
     痣だらけなる対決の前        童
   春浅きページ余白に題ありて       童
     朧月夜の狗肉を捌く         気
   黄砂のみならず大陸降り来る       童
     傘一本を貼つて十円         気
   花野にて骨折れるかと訊く陛下      童
     あきつあかねの亜種かもしれぬ    気
ナオ 芋囓りつつラトルズといふバンド     気
     折つて笑はす夏目漱石        童
   千駄木の坂を金魚をぶらさげて      気
     帯解くときの花火の記憶       童
   ぎしぎしと舟漕ぐ音のするベッド     気
     重たくなりて抜け出せもせず     童
   化野に近きブログのうつくしく      童
     歩めば桶の氷の揺れて        気
   土曜日の実験室に戻りたし        童
     大爆発で終る笑劇          気
   待宵の月も宇宙も膨張す         童
     アップルパイの焼きあがる頃     気
ナウ 十月の海に向きたる狼煙台        気
     大挙して来る坪内稔典        童
   またへんなこと言ふ腸がねぢれさう    気
     卒業の日に飛ばす風船        童
   べつべつの枝を仰ぎて花筵        気
     なかつたやうな春の海原       童

起首 2006年11月 2日(木)23時46分43秒
満尾 2006年12月24日(日)17時04分42秒

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yondo:: こんばんは。これ、あんまり長いの書けないのかしら。
tenki:: 窓が1行っていうのは凄い。30年前のワープロのようです。書いたものはどこかに残ってくれるわけですよね?(どこに書けばいいのかさえ、わからん)
yondo:: ポップアウトというのを押したら、すこしだけでかくなりました。
tenki:: じゃ、ぼちぼち行きます?
yondo:: いきなり本番ですか? 分かりました。
tenki:: 噴水として空にあり秋の水  四童
この発句からです。 噴水(夏の季語)を「わざわざ」詠み込んだ秋の句。いきなり変化球と思いましたぜ。
yondo:: いや、これは和田堀公園の実景でして、しかも「秋の水」というとふつう澄んでいるものですが、秋の午後の逆光の噴水は、それはそれは秋を感じさせるものだったのです。
tenki:: 井の頭線西永福駅下車徒歩15分。永福町からバス。和田堀公園下車。なるほどです。脇句を捻るとき、オフィス街の公園をイメージしました。リアルの四童さんというのが頭にあったのでしょう。
yondo:: 「ランチ」という語感が、そう感じさせますね。第三はフランス音楽の曲名『梨のかたちをした小品』が頭にあったのだと思います。あ、こんなふうに自作を語るんじゃなくて、お互いの句を語った方がよさそうですね。
tenki:: そう。お互いの句を主眼に、もっとゆっくりでいいですね。この発句、秋の水といういかにも俳句的な季語に、噴水という都会的なものを持ってきたのは四童さんらしいと思いました。その意味でも変化球。
yondo:: 脇(ランチに添へし梨の一片・天気)はどこかピクニックのような楽しげな雰囲気もありますよね。バスケットの中身をちょっとずつ交換して食べあうみたいな。くだものが梨なのも、ざっくばらんでいいです。
tenki:: 脇を付けるときは緊張します。プレッシャーが大きい。捌き役にしか回ってこないのが脇句。四童さんも捌きの機会が多いですが、どうですか? 脇のとき、大きな負荷を感じません?
yondo:: 気が散るのでかけている音楽を矢野顕子からアンジェラ・ヒューイットに替えました。いや、もちろん新たな気持ちで臨むわけですが、第三くらいまでは、「おお、今度の巻はすごい」とか期待に満ち溢れていて、「大きな負荷」とはちょっと違うような…。
tenki:: 私は Little Creatures という日本のバンドを聞いてます。ポジティブ思考の捌きですね。同時刻・同場所・挨拶、そういう決まりに押しつぶされそうになります。脇をなんとか付け終わると、ほっとする。だから第三句は、非常に楽しみになる。スプリングボードでしょ? 第三句は、行くぜ!という感じ。「引力のややいびつなる月の出て・童」は、離れ具合がいいですね。
yondo:: 『梨のかたちをした小品』はサティですね。題名しか知らないのが多くて…。それが頭にあって、月の座だったので、こんなのになりました。「床に落とす消しゴム・気」は「引力のややいびつなる」からよくぞ出てきましたね。
tenki:: 正直、付け筋のむずかしかったように覚えています。ちょっとモタモタ感が出ていますが、初折表っていうんだっけ? 最初のうちは、手探りでもいい、という感じがあって。
夜学から実業団ラグビーは「なつかしい日本」。
yondo:: ラグビーはですね、そのままだと打越にかかる気がして「お茶を汲む」でお茶を濁しました。
tenki:: 月がゆがむとくれば楕円。でも、味わいが違うというか、世界が違うので、気になりませんでした。それより、発句をオフィス街と見立てたせいもあって、ちょっと戻った感じがしました。このあたりは、ふたりして、まだ走れ出せない感じですかね?
yondo:: そうか。脇もランチボックスではなくてAランチとかBランチとかのイメージでも読めますものね。でも、「鉄の時代」でうまくご破算にしたような気がします。
tenki:: ランチは、噴水のそばだから(発句と同場所)、ランチボックスと読むのが妥当でしょうが、どうも、私の頭にはオフィス街がくっついて離れなかったんです。それはまあ、私の問題でもある。鉄の時代は新日鉄釜石でちょっとベタ付けでした。で、次の第7句で自分に回ってきて、また困った。離れにくくて。
yondo:: これ、溶鉱炉からのイメージの連鎖と取りました。斜陽の時代に入って火を落とすの落とさないのと。
tenki:: そのとおりですね。釜石を旅したときの寂れ方も思い出したし、炉の整理統合の資料を調べたことがあった、それもかすかに思い出しました。「電源を切る」から閉店後のデパート、なおかつ恋への導入。「下着売場の光るマネキン・童」は巧かったですね。
yondo:: 「おもだちがよくて~」はあの光るマネキンへの付けとして非常に面白いと思います。
tenki:: でも無口は当たり前だし言いすぎだし、ちょっと俗っぽくなりましたね。ちょっと後悔の残る恋の句でしたが、俗っぽさを巧く受けて「北の酒場」をかぶせていただき、このへん救われました。食糧事情は、湿度を抑えて良い処理ですね。
yondo:: はい。細川たかしです。♪ちょっとお人好しがいい、口説かれ上手な方がいい。「北酒場」とか「北の宿から」とか全部あの国のことだと思うと面白いと思いませんか。
tenki:: あの国って? あ、ごめん。野暮。あの国ね。
yondo:: で、その国の食糧事情にブリヤサヴァラン氏の馬車が登場するわけです。これは可笑しかった。
tenki:: なるほど。食糧事情なのに、美食家。どうも、私は不道徳が好きですね。この芸風はどうしようにも…。ところで、固有名詞は、連句の大きな楽しみのひとつですね。俳句だと忌避される傾向が強いのですが、連句だと、堂々と固有名詞を出せる。まったく出てこないと淋しいくらい。
yondo:: ネットで連句をやっていてときどき思うのですが、グーグルのおかげで安心して相手が知っているかお構いなしに固有名詞を詠み込めるようになったような感があります。読み方が分からないのも、カットアンドペーストして検索したりします。
tenki:: 捌きの舞台裏をばらしちゃダメですが、そのとおり。google様様。
yondo:: 俳句の場合ですが「ちゃーりーさん」は忌避されたのですか。
tenki:: そりゃあもう、ある人たちは、そうでしょう。でも、一部の人は、愛してくれましたが。ってチャーリーさんの話じゃないですよ。ここでブリヤ=サヴァランにまつわる余談になったんですよね。バルト『味覚の生理学を読む』をオススメして、美食趣味を罵倒。「たべものは黙って、おいしく、感謝しながらいただく。これに限ります。」と書き込んだのを受けて、四童さんの名台詞が出た。「あらゆる快楽は黙って、おいしく、感謝しながらいただきたいと思うことがあります。」
yondo:: はい。食べ物は残さず食べます。子どもが小さかった頃には、残すと「おさかなに謝りなさい」とか言っていました。
tenki:: じゃなくって、あらゆる快楽。俳句においても、でしょ? 両吟で、俳句鑑賞・俳句批評を否定しちゃった。黙って読め、と。これは共犯ですけどね。
yondo:: 私がいうと、いまいち嘘っぽいのですが、それは一期一会というものです。不立文字なんて言葉もありました。今ここに今ここがあることを全身で受け止めたいわけです。
tenki:: 私流の言い方をすれば、ぱくりと飲み込む。まあ、それはいいとして、馬車から対決。さっきまでの細川たかし臭から、たちまち欧州の空気へ、ですね。
yondo:: 人生の中のある時期から好きになるものはジャズとか俳句とかどこか似通ったもので、血液型は後天的にO型です。で、付句はあまり欧州ではありません。完全に少年漫画の王道に飛んでいます。
tenki:: 痣だらけなる、が、欧州でなく少年漫画? なるほど。それで、次の句のページに行くわけですね。このへんはちょっと不思議な感じもしながら見ていました。1句戻りますが、対決の「前」ではなく「後」というのも、ちょっとしたヒネリ?
yondo:: 吉田戦車もパロディに使っていましたが、矢吹丈×ウルフ金串戦(だったか)の試合に臨み矢吹陣営が痣だらけで押し黙って登場するわけです。
tenki:: なるほど。対決にもいろいろです。ところで、ここで一区切りにしませんか?
yondo:: そうですね。チャットが保存されることも確認したいですし。
tenki:: このぶんだとあと2~3回で行けそうです。いちそうコピペはしておきます。次回の日程は? 適当でいいですか。メールで設定しましょう。
yondo:: ではお休みなさい。ありがとうございました。次回は適当にやりましょう。O型ですし。
tenki:: A型だけど。おやすみなさい。風呂も沸きました。

(第二夜に続く)
by tenki00 | 2007-02-01 22:49 | kasen
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