さて、俳句第二芸術論。またかよ!の第二芸術論。芸術と文学とはイコールではないが、無関係ではない。田沼文雄さんのエッセイから引く。長い引用になるが、当時の雰囲気がよく伝わる。
その「第二芸術」であるが、このなかでもっとも人気(?)をよんだのは、大家、無名のひとびとの句をとりまぜ、無署名の十五句を並べ、有名無名の判別をつけてみよというものである。しかし、この論文では、これはあくまで自説の枕であって、桑原氏の本当に言いたかったことは、「芸術作品自体(句一つ)ではその作者の地位を決定することが困難である。そこで芸術家の地位は芸術以外のところにおいて、つまり作者の俗世界における地位のごときものによって決められる」という現象によって起こる党派性を衝き、そういう封建的な人間関係のなかから、本当の芸術運動は起こらないということであり、そういう消閑の具にひとしい俳句は、第二芸術とよんで、他の芸術と区別したほうがよかろうというものである。この書き方は、たしかにセンセーショナルであったし、後年、氏をして、「若さのせいでまずいところがあった」(『思いだすこと忘れえぬ人』昭和四十六年刊)と言わしめているが、臼井吉見氏に言わせれば、「真打ちの呼吸を心得ているだけあって、ねらいと効果に対する計算にぬかりがなかった」から大変だった。 当時、俳壇情勢などというものも皆目わからなかった私にも、俳壇のとげとげしい空気がどこからとなく伝わってきて、これは大変なことになるぞと思えた。さまざまな議論がとびかい、さまざまな反駁が話題になったことは、いまからすると想像もつかないほどだ。中村草田男氏は、その説教調は「理由なき優越感」からくるもので、これを「教授病」と命名すると言い、山口誓子氏は「作品に失望するとしても、大家に失望しない。またよしんば大家に失望するとしても俳句そのものに失望しない」と叫んだ。そして、その反論を総括して言えば、東京三(秋元不死男)氏の、「俳句は一句一句と、真剣に積みかさねて行って、大きく勝負を決する詩である。誇張じみて言えば俳句は境涯の文学である」や、加藤楸邨氏の、「俳句を通して人間の要請――生き、求め、前進してやまぬ人間の要請を生かす場としての俳句」といったような、一種の決意論に終始していたように思う。だから毎日新聞に発表した誓子氏の「往復書簡」に答えた、「山口誓子氏に」のなかで、桑原氏は、「山口氏ほどの人がつまらぬと折紙をつけたものを、諸大家が平気で発表し、これを綜合雑誌が平気でのせている、というところに、このジャンルの弱味がはっきり出ている。そして氏は『作品に失望しても大家に失望せぬ』といわれるが、作品をはなれた芸術家とは何だろう。私は、氏が現代俳壇の封建性についての私の指摘を不問にふせられたことを意味ふかくとる」と述べることになるのだ。 (田沼文雄「遙かなり「第二芸術」」『麦』1972年6月号初出・『ちょっと帽子を』2006所収) 「芸術」「文学」という語から想起されるもの、またそれらが概念として指し示すものは、当時と今ではかなり違う。その違いを無視したら、ダメですね。当時はやはり衝撃的だったのだ。 それと、ここが大事なところだが、第二芸術論のポイントは、「俳句」にあるのではない。俳句作者たち(俳句世間)が、俳句に依拠するよりもむしろ「リアルな世間そのもの」にべったりである点を指して、「第二」ということ。いっそのこと「芸術ではない」と言ってしまうこともできたが、それだと俳句世間は芸術(文学)分野から、開き直りのように離脱してしまうと見て、「第二」くらいにしたのかもしれない(そうでなくても、虚子の有名な「俳句もやっと第二まで昇格しましたか」うんぬんといった文言を招いてしまったわけだ)。 状況は、「リアルな世間」が幅を利かすという点で、当時とほとんど変わっていない。これには実は「句会」という俳句の基盤が密接に関連すると思う。…と、これを言い出すと話が長くなる。またの機会に取っておくことにする。 個人的には、リアルな世間とのベタベタの関係には嫌気がさすが、そこをどうやって突き抜けるかのアイデアはない、というのが正直なところ。 コルセットなせつなの女と第二芸術する 加藤郁乎 ※俳句検索より 芸術が「九人の女神(ミューズ)」の祝福と庇護を享けるものならば、「俳句をする」ということは、女神どころかノーブルでもなんでもない、かなり安い、でもちょっと魅力的な女とねんごろにすることかもしれない。だが、そのほうがよほどコクのある情交ともいえるのだ。
by tenki00
| 2006-12-07 12:10
| haiku
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