エリックのばかばかばかと桜降る 太田うさぎ
エリックって誰?
とりあえず恋歌と読む。「ばかばかばか」と囃しているのでは断じてなく、「ばかばかばか」と胸を叩いている。コケティッシュな女性(あるいは男性)の挙措。ここで現実の作者像と結びつける必要はない。ともかく、そんなシーン。エリックの胸はそれほど厚くない。シャツの襟ぐりからはみ出すほどの胸毛でもない。それは、桜の降るようなこと、というか、桜が降ることそのものなのだろう(このあたりの論旨は自覚的迷走の手法。どんな手法だ?)。
そのものであることで、だか、なんだか、句は、先に私がほざいたようなドラマから逃れる。意味から逃れ、印象から逃れ、表層だけをあらわにする。
エリックとは、エリック・ドルフィーでも、エリック・ロメールでも、E.H.エリックでもない。誰かを連想してはいけない。エリックはただの名前であった。ただの4音であった。桜は? 桜はただ降るのみ。ワンダフルな表層俳句(*)ざんす。
掲句は『豆の木第10号』(2006)所収。
(*)表層俳句については旧ブログのこの↓記事を参照。
http://sky.ap.teacup.com/tenki/112.html