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ジェスチャーの出題

俳句が論じられる場合、例句はおもしろいほうがいい。信治さんのブログは、例句がとてもよろしいので、嬉しい読み物だ。俳句を評するときの「散文的」という言辞について論じたエントリーでは、そのテーマはテーマで興味深いのだが(散文的でもおもしろい句はありますねえ、たしかに)、それとは別に、「冷蔵庫に入らうとする赤ん坊(阿部青鞋)」という句から、妙なことを思い出した。

一昨年の秋か冬、人名句集をまとめているときのことだ。「三船敏郎に叱られている金魚」という自分の句を見ながら、「これは俳句じゃなくて、ジェスチャーの出題だなあ」と思ってしまったのだ。これを俳句と呼んでいいのかどうか? 私は立ち止まってしまった。

他人が聞いたら噴飯ものかもしれないが、人名句集『チャーリーさん』は、自分では「なにがなんでも俳句をやろう」と企図したものだ(その意味で、狂流さんから「強引に俳句に持っていっているね」と評されたのは格別のうれしさだった)。ジェスチャーの出題が、はたして俳句なのか?

しばし考えた。そのうち、頭のなかに、「三船敏郎に叱られている金魚」という答えを引き出すために懸命にジェスチャーする柳家金語楼の姿が立ち現れた。それがなんとも可笑しかった。結果として、この句は、「ジェスチャーの出題みたいで可笑しいから、ボツにしないでおく」と決心し、句集に含めた。収めてみると、この句を好いてくれる人もいて、句として幸せな結果となった。

さて、そこで。

  冷蔵庫に入らうとする赤ん坊   阿部青鞋

これは、ジェスチャーの出題? 「冷蔵庫に入ろうとする赤ん坊」をジェスチャーする水の江滝子の姿は思い浮かぶ? いや、それとも俳句?

それはきっと、どっちでもいいのだと思う。ジェスチャーの出題をも俳句的快楽として包摂してしまう。「俳句」というもののふところは、それほどに広く深いのだと思う。
by tenki00 | 2006-02-03 21:36 | haiku
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