あめを:よお!
てんき:おっ、久しぶり。 あめを:ああ、ごぶさた。 てんき:客観写生、フォ~! あめを:な、な、なんだ? いきなり。 てんき:今年いっぱいはフォ~!で行こうかと。 あめを:勝手にしてくれ。しかし、なんでまた客観写生? てんき:うん、ちょっと前のことだが、四童さんのブログで、「対象になりきって詠んでみよう」という記事があってね。 あめを:ああ、読んだ。「四童さんの言うとおり詠んでみよう」というのを、ここでもやったが、全員に無視されてたな。 てんき:山本星人ひとりきり。冷たい奴らばっかりだ、この界隈。 あめを:あはは。他人を甘く見るなよ。 てんき:まあ、それはいいんだが、「対象になりきって」という四童さんの話のなかに「客観写生」という言葉があって、そこで立ち止まってしまった。 あめを:「客観写生的に対象に肉迫する」という部分だな。なんでまた立ち止まる? てんき:客観写生というのは、ひとつの指針だろう? あめを:ああ、子規か。世間で言われてるのは。 てんき:そこで、ひとつ、考えが浮かんできた。つまり、客観写生というのは、えらくうまいこと考えたものだなあ、ということ。 あめを:いまさら、そんなことを考えるか。しかし、そのへんは微妙でむずかしいぞ。ボクらの俳句漫才じゃ、歯が立たない。いろんな人がややこしいことを言ってるかならな。 てんき:うん、むずかしいことを言うつもりはない。ただ、「客観写生でやんなさいよ」という俳句の「指導」は、なかなかのものだ。つまり、そうじゃないと、俳句はえらく変なところに行ってしまう可能性が大きい。 あめを:わかりにくいな。例えば? てんき:例えば、対象じゃなくて、自分のことを詠み始める。 あめを:なるほど。しかし、それは明治の事情じゃなくて、現在の事情じゃないのか? こうこうこう思う+季語。こうこうこう感じた+季語。こうこうこうした+季語。それは昔の句よりも、今の俳句に多いように思う。 てんき:そうそう。子規は、今の時代を見越してたのかもしれない。 あめを:ふうむ。予見してたわけ? つまり、現時点でこそ意味をもつ「客観写生」という指針、というわけ? なんかヘンだな。キミにしては、教条的だし、だいいち、客観写生、ちゃんとやってる? てんき:努力はしている。 あめを:ううん。まあ。それは置いといても、「自分のこと」ばかり詠む句の煩わしさはわかる気がする。 てんき:オクンチ句会での朝比古さんのコメントなんだけど、「心情吐露+季語」というパターンは、自分の結社でもよく見かけるというコメント。それを読んで、「はあ、そうなのか。どこでもそうなんだなあ」と思った。 あめを:麦の会にも多いというわけか。まあ、それは今の俳句全般にいえるかもしれないな。 てんき:気持ちはわかる。ある程度のオリジナリティをもって対象を詠むのは、つまり、単純にいって、むずかしい。ネタが尽きてしまう。だから、自分のネタになる。 あめを:そういう句は、認めないということ? てんき:そんなことは言わない。ただ、99パーセントは退屈だ。 あめを:それは賛成する。作者の心情なんか興味はない。そういうことだろう? てんき:そう。そういう句を読まされても、「あなたのことはどうでもいいから、あなた以外のことで面白いことはないの?」と聞きたくなる。 あめを:「だから客観写生を」というのも短絡というか乱暴な気もするが、気持ちはわかる。心情を詠んだ場合、その主情というのは、たいてい凡庸で、集合的なものだ。もしも、主情に、見たこともない狂気があれば、それはそれで面白いが、たいていそんなことはない。 てんき:そう。集合的で凡庸で使い古された主情。でも、それだからこそ共感を呼んだりもする。 あめを:そこで「客観写生」が、ある程度の歯止めになるというわけだな。 てんき:ここで、ちょっと観念的になるが、「私」という現代の発明物から、われわれを解放してくれるという面が、俳句にあると思う。もともと、俳句のようなものを作り始めたきっかけはそれなんだが、「私」という病気から、遠いところにあるのが俳句だと、曖昧なまま考えていた。ところが、「私の主情+季語」という俳句をたくさん目にすることになって、なんじゃこりゃ!と。 あめを:ふむふむ。 てんき:それと、これは伝統俳句とか現代俳句とかという区別にかかわらない。古いタイプの措辞でも、乱暴に前衛的な措辞でも、どちらにも「凡庸な主情」が頻繁に顔を出す。 てんき:それはつまりね、人間、ほっとくと、自分のことを語り出すわけよ。あるいは、しゃべることがなくなると、自分のことをしゃべり出すわけ。昔ね、会社の採用試験に携わったことがあるんだが、作文の試験で、そうだった。 てんき:ふうん、作文? あめを:作文のテーマをね、「今朝起きてから、この試験場に来るまでに見たこと、経験したことを題材にして書いてください」とした。すると、9割以上が「自分」のことを書いていた。それだけで試験は×。編集スタッフの採用だから、当然だ。「読者は、キミのことになんか興味ない」ということだよな。職探しの最中か今の会社に不満で転職を考えているか知らないが、心情や境遇を打ち明けられても困ってしまう。 てんき:そりゃそうだ。 あめを:例えば、道で面白いものを見た、変な人を見た。そこがスタート。そこから、自分に引き寄せて展開してもいいが、読者が読みたいのはけっして、その人のことじゃない。自分の書いたものが、他人の目に触れる。そこから、自己露呈に行くか、それとも他人が何を読みたいかを探るか。その差は決定的に大きい。 てんき:ああ、だが、俳人は編集者じゃない。 あめを:わかっている。読者ニーズは話の尾鰭。要は、放っておくと、自分のことをしゃべりはじめる人が多いということ。俳句にも共通するだろう? てんき:「私」という病だな。 あめを:そうかもしれない。ただね、俳句というのは、まずは作者個人から発するものだし、多くの読者を想定したものでもない。だったら、「私の主情」を詠んでも、いっこうにかまわないという理屈にもなる。 てんき:それには、じつは答えがある。「私」は狭隘で、対象としての「世界(cosmos)」は広大で豊かであるということだ。狭隘な「私」は、「私」あるいは「私の主情」によって、解放されることはないんだな、これが。「私」の狭隘さを突き詰めていく作業によっては、もしかしたら、「私」が解きほぐされるかもしれない。でも、すくなくとも「私の露呈」「主情の吐露」によっては、「私」の狭隘さが強化されるだけだ。対象としての世界との関わりによって、「私」がすこしだけ広くなる、溶解する。 あめを:そうなら、幸せな一瞬だな。 てんき:現実にはそんなことはなかなか起こらない。でも、起こるかもしれない。 あめを:思念的になっちゃったな。シンプルなところに戻ろう。「アナタが何を思ったか、何を考えているか」、それは日記にでも書いてくれ。俳句で伝えるのは「アナタ以外のもの」にしてくれ。そういうことだろ? てんき:まあ、そうだな。もちろん、自戒の意味を込めて。 あめを:そう、自戒は大事、ね。 てんき:自戒、フォ~! あめを:もういいって。じゃあな、また来るわ。この話題は、もう少し別の展開もありそうだ。 てんき:おお、またな。
by tenki00
| 2005-10-25 23:21
| ameo & tenki
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