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秋鯖

新潟・寺泊に角上水産という魚屋さんがあります。ここから鮟鱇を取り寄せで買って、句会後に皆さんといっしょに食べたりしていたのですが、最近、東京近郊にも出店してきて、ついこのあいだ、国立インターチェンジの向こうに新規オープンしたんですね。早速、秋鯖の塩焼を買い、晩御飯でいただいたのですが、旨い。関西では、鯖といえばバッテラで、ナマの鯖を煮つけたり焼いたりはあまりしないようなんです。それもあって、年をとってからの鯖は、格別おいしいのです。

  フェリーニの大田区秋鯖買う夫人  近藤十四郎

近隣では知らない人のいない有名句ですが、近隣じゃないところでは、まったく知られていない。当たり前ですが。

ずいぶん前に知った句ですが、いまだに良さは衰えません。

で、いま何を考えたかというと、「省略」ということ。

後半部分はそのまま「秋鯖買う夫人」で、ここに省略はない。問題は「フェリーニの大田区」。ここにどんな省略を読み取るかで、読む人の気分が違ってくるかもしれません。

野暮な蛇足を言ってしまえば、「フェリーニの(映画の雰囲気に似ていると言えなくもない)大田区」なのか、「フェリーニの(映画をあの子といっしょに観た映画館のある)大田区」なのか「フェリーニの(登場人物を思わせる男女が歩いていそうな)大田区」なのか……もろもろ。

何が省略されているのか、確定はできないが、かと言って、まったく自由な読み取りを許すわけではない。この、確実・不確実のあいだに宙ぶらりんで浮いているかのような「フェリーニの大田区」というフレーズ。これが、この句の空気を支配していて、そこに秋鯖と夫人が登場することで、なんとも言えない世界が現出するようなのです。

だらだらたくさんのことを言ってる暇がない、という俳句の美点は、いろいろな素晴らしいことを引き起こしてくれるという、その好例と思うですよ、はい。


by tenki00 | 2011-10-08 21:00 | haiku-manyuuki
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