例の鶏頭の句についてのいくつかの記事に関してなんですが。
よく知られた俳句作者の句を読む場合、ざっくり簡単に言って、次の3通りがありますね。で、実際に3通りの「読み」が存在していた(している)。 A 句そのもの B 句そのもの+作者 C 句そのもの+作者+作者の伝記的・楽屋裏的情報等もろもろ、作者名に付随する情報 ※Cの3項目を、山口優夢氏は「外部情報」という語を宛てていますが、「作者」は外部?内部?というところが私にはよくわからないので、こうだらだらと列挙的に書いておきます。 で、ですが、私たちがふつうに(というのも曖昧な言い方ですが)やっているのは、B。これでいいんじゃないか、と、私などは思います。 Aの読み方を極端に押し進めれば、優夢氏が例示するような「尋ねけり」に電話を想定するような珍読も起こりうる。Cの読み方を、がんがん精力的に押し進める仕事もありますが、ややもすると、句そのものは置き去りにされる。読む快楽は、あくまで句そのものがもらすもので、句の出自に心を揺さぶられたりはしない。一種の本末転倒。 BとCは、はっきりした境界はないとも言えます。作者名があるだけで、多くの情報が付随してしまう(あるいは読み手が召還してしまう)ケース。子規はこれにあたり、それほどポピュラーではないところでは村上鬼城なども、そうなりがち。この場合、Bで読んでいるつもりでも、C寄りのB、ということになる。 このところの議論のもととなっている高柳克弘論考(「現代俳句の挑戦 第13回 十七音に徹して読む」(角川「俳句」2010年1月号)は、「C寄りに傾きがちな子規の有名句を、あえてA寄りで読んでみよう」ということのように読みました。なぜ、「あえて」そんなことをするかというと、簡単にいえば、歴史的にCの読み方ばかりが採られてきたから、だと思います。 A寄りで読んでみると(高柳氏の実践は「鶏頭」ではなく「雪の深さ」になっています。ここ軽いツッコミどころです)、なるほど、きちんと読解はできます。けれども、「なぜにわざわざそんなことを」といった疑問も生じる(高山れおなさんの「なぜ、子規の人生とセットで了解されている句を、あえてその人生から切り離さなくてはならないのか」「他とは格段に異なる強さで子規の人生をおのれに引き寄せ、時に過剰なまでの読みを誘発する力をこの句が持っている以上、この句を名句と呼ぶに躊躇う理由はないのではないでしょうか」がまさにそうです)。 でも、それは、高柳氏が、歴史的に積み上げられたCの読みからの離脱のために、あえてA寄りを試みた、ということだと、私は解しました。 そんなところ。 繰り返せば、よく知られた句は、作者名を込みで読むのが自然。でも、17音に誠実に向かい合う態度は大事。評伝的・楽屋裏的情報を厖大に動員するのって、どーなの? といったところでしょうか。 付記: 山口優夢氏の記事への違和感は、「読む」から「詠む」へ倒錯、言い換えれば、「どのように読ませるか」という倒錯が起こっていると感じたところから生まれています。彼がみずからについて強く「作者」を意識しているところから発した倒錯かもしれません。でも、あくまで、「読む」話をしているところに、「伝記的・楽屋裏的情報」という過去の幾人かのアドバンテージを鑑みるときの、それらを持たない(持っていなくて当然です)「僕ら」の戦略に展開されても、困ってしまう、という話でした。 もうひとつ付記: ある句が「名句」かそうでないかといった議論はあって当然ですが、私には興味関心がありません。「名句」という話題・テーマの立て方そのものが、ぴんと来ないのです。 ちなみに、「鶏頭の十四五本もありぬべし」は≪ただごと俳句・脱力系≫として重要な一句と、わたしゃあ思いますけどね。 またまた昼飯前の取り急ぎで、失礼。
by tenki00
| 2010-02-04 13:20
| haiku
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