カテゴリ:haiku-manyuuki( 180 )

コレラ

以前、東京都の伝染病だか細菌だかの研究施設に、ちょっとした用で行ったことがある。木造建てでちょっと蔦がからまっていたりして(ここは記憶の脚色かもしれぬ)、えらく雰囲気のある建物だった。廊下を抜けて、部屋を抜けて、すると、そのへんの棚に置かれたガラス瓶に、コレラ菌だとかナントカ菌だとかと書いた紙ラベルが貼ってある。ことばの威力はすごいもので、病原菌の名前を見ているだけで、アタマがぼーとしてきて、体温が上がっていくような気がした。

  コレラコレラと回廊を声はしる  青山茂根

回廊だから、どこかへ抜けていくことはない。永遠のようなものだ。声が「はしる」という言い方にも、なかなかな迫力がある。読んでいる者が不穏な気分になるのみならず、世界に事件が起きそうですよね。


掲句は『BABYLON』(2011年8月・ふらんす堂)より。ほかに何句か。

  いはれなくてもあれはおほかみの匂ひ

  いつせいに星を廻せる鯨かな

  塔あらば千の虫籠吊るしたし

  鶯を入れて苔むす景色かな


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by tenki00 | 2011-09-26 22:00 | haiku-manyuuki

遊ぶこと・含羞ということ

佐山哲郎句集『娑婆娑婆』が増刷になったそうだ。

  逝く春を交尾の人と惜しみける  佐山哲郎

この句は、この句集の3つの要素を併せ持つという意味で特別な句と言っていい。つまり…

もじり
語呂合わせ
エロ

この3つ。

(もじりという点で、なぜ芭蕉の原典とは違う「逝く」になっているのか、私には疑問。ここは「行く」でしょう)


ところで、この句集の出版記念会にお邪魔してきたのですが、皆さんの挨拶に、「この句集は、言葉遊びだけではない」というセリフが多かった。つまり、もじり、語呂合わせ以外にも、いいところがたくさんあるということを、多くの方がおっしゃっていた。

これを聞いていて、ああ≪言葉遊び≫がずいぶんと虐げられているのだなあ、と思いました。

遊んで、悪いですか? 言葉遊びは恥ずべきことなんでしょうか?

『娑婆娑婆』の最大の魅力は、素晴らしく馬鹿馬鹿しい遊びに満ちているところです。馬鹿馬鹿しくない句も、そりゃあ、もちろんありますが、そこはストロングポイントにはならない。

俳句世間一般、遊んでいない句、遊べていない句、そこそこマジメで、そこそこ巧く行っていない句、もっと言ってしまえば、そこそこヘタなマジメ句なんて、掃いて捨てるほどあるじゃないですか。

佐山哲郎氏の句は、フマジメです。そして、巧いです。そして、遊ばずにはいられないという、含羞。ここが大事なところです。

(大マジメでしか俳句をやらないという人には、「少しは恥ずかしがってくださいよ」と申し上げたくなります)


為念。誰もが、佐山哲郎氏のような句をつくるべきなんて言ってるんじゃないですよ。遊び方は、人それそれですからね。


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句集『娑婆娑婆』の購入はこちら

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by tenki00 | 2011-09-25 11:00 | haiku-manyuuki

月蝕

硬質の韻律が支える美しい景色。

  月蝕や背を割って飛ぶ黄金虫  綾野南志

調べ・リズムがたいせつです。意味よりも先にそれがある。


掲句は『烏兎怱怱(うとそうそう)』(2011年8月・本阿弥書店)より。

先の句はいくぶん耽美的ですが、句集全体は、そうでもありません。骨太な句、という印象です。ほかに何句か。

蔦が木を締めつけている寒気団

霧のなか富士の全量居座るか

人憎みおれば生き生き雪が降る

もう刻(とき)はゆっくり行かずクリスマス


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by tenki00 | 2011-09-22 21:56 | haiku-manyuuki

かん!

草原のまんなかを舗装されたきれいな道が走っていたりする。観光地なんかでは、よく。

  ばつた跳ねガードレールをかんと打つ  中本真人

かん! とほんとに音がしたんでしょうね。ここまで聞こえてきそうです。


掲句は『庭燎(にわび)』(2011年8月・ふらんす堂)より。他にいくつか。

  梯子からお茶を受け取り松手入

  青写真忘れし頃に出来上がる

  日焼して学生証と顔違ふ

  遠足を離れて教師煙草吸ふ


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by tenki00 | 2011-09-21 22:24 | haiku-manyuuki

流れ星

むかしグールドの弾くパルティータの3番だか何番だかの出だしを「流れ星のような」と譬えたミニコミ誌の記事があった(たしか京都を旅行中に読んだ)。って、不確か極まりない記憶ですが、ともかく、流れ星のようなパッセージ、演奏。素敵ですよね。

  オルゴールの終りの音は流れ星  花谷 清

流れ星の、あの、実際にはおsれほどはっきりとは見えない仄かな航跡は、ピアノよりもむしろオルゴール。こういうロマンティックな句もいいものです。

掲句は句集『森は聖堂』(2011年5月10日・角川書店)より。ほかに何句か。

  積石の石みな違う鳥雲に

  八月や水平線は線ならず

  鶏頭花好まず植えず見にゆかず

  真夏日の森は聖堂鳥睡り

  全館冷房マスターキーの置きどころ

  禁煙マークのけむり二筋日脚伸ぶ


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by tenki00 | 2011-09-19 22:00 | haiku-manyuuki

カンナ

カンナという花を好きだという人は少ないと思う。根拠はないけれど。

大雑把で押しが強い感じの花。それだけに存在感はあるのだけれど。

  不眠症カンナに雨の来てをりぬ  藤崎幸恵

不眠症は経験がないが、眠りたくても眠れないのであれば、世界は、小さなディストピアでもあるでしょう。どぎつく赤いカンナの花を、さつに大きな葉に、雨が来る。

どう良いのかうまく言えなくて、それでも好きだという句がたくさんあって、この句もその手の句。


『異空間』(2011年3月・角川書店より。他に何句か。

  紫陽花の隙間混沌雲と水

  夏草や中州に光る警察官

  対岸の原子炉真白麦の秋

  千ヘクトパスカルわれに黴の花

  草刈つてよりの眠気でありにけり


【参考】
:閑中俳句日記(別館)-関悦史
:俳句と主夫の間で
:夜空へ

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by tenki00 | 2011-09-18 22:00 | haiku-manyuuki

豆腐屋

くにたちの西(ってのは住所なんだけど、中とか東とか富士見台とか、ある)あたりでは、かなり最近まで、自転車を押してくる豆腐屋さんがいた。

  豆腐屋の喇叭に五時のもう暗し  池田澄子

あのオッチャン、まだ元気かなあ。西の住所に暮らしていたときは、よく買った。引っ越してすぐのときは、その部屋の前の住人が、とあるフォーク歌手だったことを教えてくれたりして。

豆腐屋と季語「暮れやすし」はぴったり寄り添っている気がするです。


掲句は句集『拝復』(2011年8月・ふらんす堂)より。


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by tenki00 | 2011-09-17 22:00 | haiku-manyuuki

平和

実際のところ、毎日、おおむね平和なわけでして。

  秋の蚊に吸はれて平和だと思ふ  仁平 勝

はい、平和といえば平和。

もちろん、1時間後に、私を取り巻く状況が平和なんぞととても言えないものになるかもしれませんが…。

それはいわゆる「3.11」以降も? んんん、どうなんでしょう?

誰かがそれどころじゃなく、別の誰かはそれどころ、というのは、いつもそうなんですしね。それに、「これは平和じゃない」と継続して思い続けることは、少なくとも私のような凡人にはそうとう難しい。


ただし、平和だからといって、ハッピー!ハッピー!てなことなのかというと、それはそうではなくてね、なんだか、どよ~んとはしているわけです。

で、こんな捉え方も、たしかにありますですよ。はい。
いい国すぎて危機感がもてない



掲句は『黄金の街』(2010年11月・ふらんす堂)より。この句集、ゴールデン街というタイトルの趣向から連想するのと少し違う、脱力系のおもしろい句が並んでいます。かなり好みでした。引くと、たくさんになりすぎますので、3句だけ。

  靖国の暑いの暑くないのつて

  八月の町が停電してをりぬ

  元日のもう夕めしになつてをり


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by tenki00 | 2011-09-16 22:00 | haiku-manyuuki

月光の脚

水に月光がふりそそぐ。それはそれは美しいシーンなのですが、

  月光の脚折れてゐる水面下  米岡隆文

水面を通り越して、水の中にまで射す月光に思いの到る、この句。なんと幻想的でしょう。


句意を曲解することになるかもしれませんが、このアルバムジャケットを思い出しました。
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掲句は歌句集『隆』(2011年7月・邑書林)より。他に何句か。

  朝顔は小さき湖を抱へ揺る

  水底へ傘ごと海月弾かれる

  大空に月ありわれに鏡あり

  春宵やずれて鳴るのがオルゴール

  風船の外側も内側も風


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by tenki00 | 2011-09-15 22:00 | haiku-manyuuki

月光

きれいな満月を見ました。

  海は今しづかに月光の器  奥坂まや

ドビュッシーの「月の光」はこちら。
http://hw02.blogspot.com/2011/09/clair-de-lune.html

掲句は奥坂まや第3句集句集『妣の国』(2011年6月6日・ふらんす堂)より。他にいくつか。

  眼帯の瞼重たし蛭泳ぐ

  曼珠沙華茎に速度のありにけり

  雪降り来心臓模型硝子のなか

  坂道の上はかげろふみんな居る

  老人が二人サボテンが二本

  桃の在るのは人生のちよつと外

  みんなみは歌湧くところ燕


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by tenki00 | 2011-09-14 22:00 | haiku-manyuuki