四童さんと巻いた両吟歌仙についてのチャット(google chat)。第一夜、第二夜に続いて今回は第三夜(07年1月28日実施)。
yondo:: お待たせしました。今晩のBGMはエマーソン・レイク・アンド・パーマーのファースト・アルバムです。 tenki:: 景気をつけようと、incognito ふだん聞かないのに。 yondo:: あ、それ、ぜんぜん知らない。 tenki:: 名残表から、ですね。私の長句。 ラトルズは、なんとはなしに出したのですが、このあと、ビートルズのリミックス、ラブが出て、界隈で話題になったのでした。 yondo:: はい。ラトルズはちゃんと聴いたことがないのですが、前句から偽物つながりで来たものと受け止めました。「といふバンド」というあたり、いかにも「芋囓りつつ」の話の種という感じが出ていると思います。 tenki:: 「笑わす」で、お札の漱石。笑いへ直接行かずに、ちょっと捻った。小技が聞いています。「笑わす」という口調は韻律的にちょっとこなれない気もしましたが、自分ではどうでした? こういうことを聞けるから、アフター歌仙の語らいはいいですね。 yondo:: フォーマルに言えば「笑わせる」ですが、日常会話で「笑わす」は使っているので、さほど違和感はありませんでした。 tenki:: カジュアルな言い方も、歌仙のなかに溶け込む感じはありますね。それも、前後、というか、全体が「古風」を気取って遊べているからか。 yondo:: はい。受け皿としての連句の得体の知れなさはいまだに掴み切れません。 次の句へ行きましょう。漱石といえば千駄木ですね。「金魚をぶらさげて」に、あの町の古風な佇まいが感じられます。 tenki:: ベタに付けました。この付句には、四童さんが、「実際に漱石は千駄木に住んでいたわけではありますが、この場合、千円札から千駄木が出てきたのか、とか、金之助から金魚が出てきたのか、とか、いろいろと暗合が興味深い付句ですね。」とコメントしています。金之助から金魚は無意識ですが、無意識はあなどれない。 yondo:: しかし巻いている最中は、やっぱりテンションが高いなあ。今読んでいても、そこまで思い至らない。 tenki:: まあ、ベタ付きを、うまくフォローしたコメントでしょう。そういえば、しかし、歌仙は、ときどきベタに付けたくなるのですよ。以前は、避けた、避けてもらったような付け方でも。飛んでばかりいる歌仙は疲れるようになって。もちろん、近く近く進む流れは避けますが。 yondo:: どうも打越が飛んでいればいいらしい、というのが私も始めた頃には分からなかったのです。 tenki:: 次は「帯解くときの花火の記憶・童」で恋。古風な恋でげす。 yondo:: 漱石の『行人』の中で、暗闇の中で関係を持ってはいけない立場の人が帯を解く音を聞くシーンがなかったですか。高校の夏休みの宿題で読んだので、忘却の彼方なのですが…。「花火の記憶」はモンタージュでくっつけてしまったのだけど…。 tenki:: 「行人」? 読んだ気もするし、学校がらみのような気もしますが、いずれにしても憶えていない。「行人 漱石」でググると、柄谷行人だらけ。迷惑な筆名だ! それはそれとして、付筋は、ぶらさげる格好と帯び解く格好の相同と見ました。粋な相同だな、と。 yondo:: ははは。漱石といえば、いろいろさぼっていたおかげで俳句を始めてから『草枕』を読むことができたのはラッキーでした。 「ぎしぎしと舟漕ぐ音のするベッド」は、あまりにもストレートなので笑ってしまった。捌きをやっていて思うのは、みなさん、こういう恋の句をなかなか付けてくれないのですよね。 tenki:: そうですそうです。捌きとしては、恋なんだか何なんだかわからないような恋の句は、困る。はっきりいえば欲しくない場面がたくさんある。 yondo:: 連句の中で恋の句を続けるという変な約束ごとは、江戸時代に生き物として女性が男性に比べ圧倒的に少なかったこととも関係あるんでしょうかねえ。 tenki:: 人口、ジェンダー、いろいろ言えるでしょうが、恋は、ひとりではなく、ふたりの応酬ということで、非常にわかりやすい(説得性のある)きめごとだと、当初から納得しました。次の「重たくなりて抜け出せもせず・童」は、遣句っぽくて助かりました。 yondo:: いや、ぎしぎしとしたあとは重たくなります。リアリズム俳句です。 tenki:: 次は「化野に近きブログのうつくしく・童」。化野は墓場と解しました。萩月さんのブログとは思わなかった。でも、萩月さんを誘って、唄暦をやろうと考えていたことは本当で、ちょっとしたシンクロニシティ。 yondo:: 腹上死なので墓場でよいのですが、萩月さんのブログは唐突すぎて誰も分からないですよね。更新されないブログと読む方が自然で、だとすると「うつくしく」は意味不明ですね。 tenki:: いや、うつくしいでしょ? それより腹上死は考えなかった。 古い病院のベッドを安く買って使っていた女がいて、それはそれはギシギシうるさかったです。話が戻ったか。 yondo:: ううむ、連句ならではコミュニケーションですね。作者が意図したこととは違う読みの連鎖という、この文芸、ぜったい可笑しい。 tenki:: 「石屋の首にしやれたマフラー・気」は打越の「重く」には障らないと思いましたが? 障るといえば障るか。このへんは石屋に抱くそれぞれのイメージですね。 yondo:: 墓石を思い浮かべて、打越にかかると言ったのですが、でも石じゃなくて石屋なのだし、よかったのかも知れません。 tenki:: 石なら、障りますね。で、墓場に、手桶で付けました。多磨霊園(どこでもそうでしょうが)、まわりは、石屋と休憩所(って言うんだろうが、手桶を並べて、墓参の人にサービスする店)だらけ。 yondo:: 「歩めば桶の氷の揺れて」は、実はなぜ氷が入っているのかよく分からなかったのです。どういう情景なのか。で、実験室につながってしまうのです。 tenki:: 考えてみると、わかりませんね。ちょっと失敗。思念的だった。手桶に氷が張っていて、それを持って墓に向かうと、張った氷がほぐれて揺れる、というイメージでしたが、ふつう、昨日から水を入れているわけないし、それを持って歩くというのはヘンですね。 実験室は、空気が変わって、よかったと思います。 yondo:: 原田知世ちゃんは確か誕生日が同じなのです。 tenki:: 原田知世? ラベンダーの香りですか? yondo:: それです。 tenki:: 連想があそこに行くようでは、四童さん、ヤバいですよ。 yondo:: では気をとりなおして「大爆発で終る笑劇」ですね。実験に爆発はつきものですが、爆発で終わる笑劇ってなんだろう。このあたり「衝撃」との掛詞にもなっているようで、頂きました。 tenki:: ダジャレもアリよ、という感じで。膨張宇宙は、打越の実験室に障る感じがしました。もういっちょ代替を!とリクエストすればよかったですかね? yondo:: 私も気にしていました。大爆発=ビッグバンということだったのですが。ついでながら、その頃お台場の展示場から水上バスで帰ることがありまして、12月なので17:15の終バスといえどもすっかり日が暮れていまして、海の上で左手にライトアップされたレインボー・ブリッジ、右手に水平線から出てきたばかりの満月という、ゴージャスな景色を見てしまいまして、その月がそれはそれはでかかったのです。 tenki:: 宇宙を避ける手がありましたね。例えばですが、 待宵の月は大きくふくらんで みたいな。俳句では、元も子もないような句が歌仙では楽しかったりする。この楽しみを覚えて、私は、俳句でまで、元も子もないような句をつくりはじめたという経緯があります。 yondo:: 「待宵の月は大きくふくらんで」、いいですね。今から差し替えたいくらいです。 tenki:: 歌仙は、私の場合、俳句にはっきりと影響を与えてしまいました(大袈裟な告白)。yondo:: 元も子もないというか、一句の中でひとつのことしか言わない平句の作り方は、俳句プロパーな人からみると「連句をやると俳句が下手になる」の論拠そのものですよね。 じゃあ十七音をたっぷり生かした俳句を作ってみろ、と言いたい。多くの場合、十二音だけ作って適当に季語をくっつけたようなものしかできないくせに。ああ、私は誰に腹を立てているのだろう。 tenki:: 私は「一句の中でひとつのことしか言わない平句」が好きなもんで…。下手でもなんでも、好きだから、しかたがない。「十二音だけ作って適当に季語をくっつけたようなもの」は、「誰でも簡単にできる俳句」として、格好の入門スタイルになった。でも、ニ物衝撃というのが、クセモノだと思う。俳句をやらない人には、この二物衝撃こそが伝わりにくい。 yondo:: 「一句の中でひとつのことしか言わない平句」原理主義者、みたいな俳句、作りたいですよね。いや、これはボヤキではなく平句好き宣言みたいなものです。 「アップルパイの焼きあがる頃」は、宇宙膨張説のハッブルの音から導かれているような気もしたのですが、はずれですか。 tenki:: はずれ。パイがふくらむ感じ、ですが、これ、打越の大爆発にちょっと障りますね。まあ、いいか。四童さんが掲示板でコメントされたとおり、アップルを秋の季語として使ったのが、趣向といえば趣向。この手のことはわりあい積極的にやるほうです。 yondo:: 焼き上がる煙から「十月の海に向きたる狼煙台」。名残裏としてきれいにまとめに来た感じがよいです。 tenki:: 次の坪内稔典は、ちょっと引っかかりました。詠み方ではなく、歌仙に盛り込むほどの人名には到っていない(物語性という意味で)と感じるからです。 yondo:: しかも坪内稔典が「船団」であることまで知っていないと、意味不明な付句ではありますよね。でも、前にも言ったけど、ネットで連句やっていると、皆さん知らないことばかり書いてくるもので、自分が作る立場に回ったとき「分からなかったらグーグルで検索すればいいじゃん」みたいな横柄な態度になっていることも事実。 tenki:: いや、坪内稔典=船団は周知と考えていいと思うのですが、素材として抵抗があるんです。俳人の名を詠むのは、物故が最低条件。生きているうちは生臭くなる。木枯さんに「猫にかまける櫂未知子」という句がありますが、あれもひどく抵抗がある。感覚的なものです。 yondo:: なるほど。木枯さんの句でいえば「多佳子恋ふその頃われも罌粟まみれ」ならよいわけですね。 tenki:: そう。 先立たるリリアンギッシュ冬の南風 池禎章 はgood。(リリアンギッシュなら存命でもアリですが) yondo:: といいつつ「またへんなこと言ふ腸がねぢれさう」は腸捻転というベタ付けで、面白かった。私が坪内稔典を出したのがいけないのですが、名残裏としての格調という点でちょっと物足りなくなってしまった感があります。 tenki:: そうですね。ここで暴れちゃうのは、どーなの?とは自省しました。「卒業の日に飛ばす風船・童」で、まとめにかかってくれました。季重なりっぽいと指摘する人もいるかもしれませんが、それはまったく問題ナシ。 yondo:: なんでも季語にしたがる勢力というのがあって、たぶん季語がないと困ると思っているんだろうけど、そのせいで季語は年々増加しています。今の歳時記をスタンダードにするなら、虚子あたりは季重なりだらけになると思います。具体例は省略しますが…。 で、この句の場合、季重なりよりもなんだか挙句みたいな雰囲気があって、花の座、苦労しませんでしたか。 tenki:: 季語は0個でも1個でも2個でも3個でもオッケーという考え方です。 yondo:: そのくらいおおらかでないと、詠めるものも詠めません。 tenki:: はい、卒業は挙句のようですね。花の座は苦労したのですが、その理由は、その点ではなく、なんだっけ? いま思い出そうとしています。時間を稼いでください。なにか話でもして。 yondo:: セシル・テイラーがごんごんやっているので大丈夫です。 tenki:: こちら、サザン・ソウルの大御所を集めた最近のセッション。こりゃ、最高ですぜ。 yondo:: そういえば、何年か前に天気さんから渡されたブラッド・メルドーはお借りしたのでしたっけ、頂いたんでしたっけ? tenki:: ところでちょっと思い出しました。風船なので、視点というか材料を上に持ってくるか下に持ってくるかで迷って、花の雲とか花筏とか、いろいろ試して、それも巧く句にならなかったのです。前句の卒業はむずかしい。結局「べつべつ」なんて、安物の学園ドラマになっちゃった。 ブラッド・メルドー? ああ、思い出せませんが、あげたんですよ、きっと。そちらの都合のよいほうに解釈してください。 yondo:: では、頂きます。数日前に久しぶりに聴いたのですが、よかった。ありがとうございます。 tenki:: いよいよ挙句です。「なかつたやうな春の海原・童」は心象風景。最近、いやなことが多いんですか?w アンニュイ。 yondo:: 「べつべつの枝を仰ぎて花筵」は、花筵というひとつの場所に閉じこめられている点で、切なかった。あ、もう挙句の話に行ってしまったのですか。 tenki:: おたがいアンニュイ? yondo:: なかったことにしたいことはひとつならずあります。海、見に行きたいなあ。青春ドラマみたいに「馬鹿野郎」とか叫んじゃう。 tenki:: 関西人は「馬鹿野郎」と叫べないからツラい。海に向かって「アホか」ではサマになりません。 今日はここまでいたしましょう。で、元気なときに、全体を軽く振り返る。ということでいかがでしょう? yondo:: それ、おかしい。何年か前、大阪にいったら痴漢防止のポスターに「チカンはアカン」と書いてあって、笑ってしまった。関西人はいいなあ。はい、では本日はここまでということで。ありがとうございました。 tenki:: はい。では、おやすみなさいませ。
by tenki00
| 2007-02-05 20:01
| kasen
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