中村安伸さんのブログに面白い記事があった。
三島忌の帽子の中のうどんかな 攝津幸彦 『鳥屋』(昭和61年刊) 三島忌の帽子の中の虚空かな 角川春樹 「河」(平成18年4月号) この類似については、すでに各所で話題になっているのかもしれないが、私は、中村さんの記事で知った。この記事に関連した細見晴一さんの記事も併せて以下のアドレス。 中村安伸さんの2つの記事 http://yasnakam.cocolog-nifty.com/blog/2006/05/post_47ee.html http://yasnakam.cocolog-nifty.com/blog/2006/05/post_6fae.html 細見晴一さんのこの記事 http://finwhale.blog17.fc2.com/blog-entry-46.html 角川春樹のこの句を読んで、盗作とか偶然の類似などとは思わなかった。当然、攝津幸彦のこの有名な句が存在する、それを前提にしての「虚空」の「代入 substitute」だと思った。三島忌の句であると同時に、攝津幸彦へのオマージュといった意味合いも含んだ句だろうと思ったのだ。 ただ、「虚空」だなんて、ベタベタで、「うどん」にははるか及ばないというのが、私の感想。オマージュにしては、うどんの軽妙洒脱に無縁すぎる。また、パロディとしても、どうもしっくりこない。つまり「虚空」のパロディで「うどん」ならわかるが、逆なら、パロディにはならない。まあ、そうは言っても、「うどん」ももはや消え去り、「虚空」であるという本歌取りも、アリといえばアリだろう。 そこで、ネット上で、中村さん、細見さんのブログ以外で話題になっていないか、google検索(お手軽ですみません)してみた。すると、面白いものがヒットした。角川春樹自身がこの句を紹介した文章である。 http://www.monthly-rentier.com/soul/poem/03.html 巻物のように長いページで見つけにくいが、半分より下の位置、「三島忌の帽子」でページ検索すれば、すぐに見つかる。この時点(2006年3月号「月刊ランティエ」掲載)で、角川春樹はこう書いている。 三島忌の例句はまだ少ないが、こじまあつこの作品は三島の姿が彷彿(ほうふつ)し、『河』作品の中でも一歩、抽(ぬき)んでている。私の作品を上げると、 鮫捌(さば)く三島由紀夫の日なりけり (未発表) 三島忌の帽子の中の虚空かな (未発表) これを読むと、え!と思う。ひょっとして、角川春樹は、攝津幸彦の句を知らない(あるいは忘れている)んじゃないかと思えてくる。こうした手記的な記事なら、「攝津にこの句があるが、私はこうだ」といった但し書きが付いて当然だと思う。しかし、ない。紹介しっぱなしだ。角川春樹ともあろう人が知らないはずはないとは思うのだが、この書き方は、攝津句を下敷きにしている感じではない。オマージュでもパロディでも(あるいは本歌取りでも)ないように思えてくる。ううむ。こういう場合、どうしたらいいのだろう?と悩ましくなってくる。 ああ、どうすればいいんでしょうね? 困っちゃいません? 攝津幸彦の句を知ったうえで、虚空の句をつくるのはかまわないと思う。ただ、そのことを記さねばならない。すなわち先行句の存在を明記する。それがなければ、やはり問題だ。これは、先に挙げたブログの記事で、中村さんと細見さんがおっしゃっているとおりである。ところが、先行句の存在を知らなかったとしたら、どうだろう? じつにややこしいことになる。 そして、もっとややこしいのは、「知らない」気でいながら、どこかでその句を目にしていて、頭の隅に残っており、それが「三島忌の帽子の中の×××かな」のフレーズとして浮かんできたというケースだ。これは他人事ではなく、俳人全般に関わる厄介事とも言える。 オマージュにせよパロディにせよ、既存句を下敷きにした句作はあっていいと思う。自分の例を引くのは恐縮すぎるが、人名句集『チャーリーさん』でいくつか実践している。「冬ざくら吉田義夫はよい役者」「はつゆきや吉田戦車はよい戦車」(天気)を掲載。キャプションとして、小沢信男さんの大好きな句「潮干狩京成電車よい電車」へのオマージュであることを記した。俳句を発表するとき、但し書きは忌避される傾向にある。余計な但し書き(例:どこどこにてetc)はどうかと思うが、オマージュ、パロディに関する但し書きを用いた発表のしかたがあっていいと思うのだ。 追記①上記・細見晴一さんの記事でひとつ気になるのは、「オリジナリティ」を排外性(他の作者が使ってはならぬ)の有無を決める要素とされている点である。細見さんの言われるオリジナリティとは、表現の独創性、措辞としての先行性ということだろう。しかし、こうした論旨は危うい。 まずもって、その意味でのオリジナリティの有無の境目はどうしても、曖昧な経験則あるいは私見によってしまう。それにまた、レディメード(あるいは引用)という問題も残る。例えば「今日は帝劇、明日は三越」という戦前(1913年)の広告コピライトの一部を句に用いた攝津幸彦の句(幾千代も散るは美し明日は三越)の、そのレディメード(あるいは引用)の手腕にオリジナリティは、あるのか、ないのか(言い換えれば、今後「明日は三越」を下の句に使う句は、攝津幸彦の先行句を無視して成り立つのかどうか)という問題だ。 いずれにせよ、類似句が存在してしまうという事実、類似の自覚的な駆使。それらはかなり微妙な問題(それはポジティブにとらえれば豊かな話題)を孕んでいそうで、「この表現にはオリジナリティがあるから使えば剽窃だ」というふうにシンプルには捉えられないように思う。「オリジナリティ」を要素として扱うには、慎重な態度と手順が必要だろう。 追記②たびたび引いているが、秀逸な三島忌の句がある。 三島忌やすっぽりぬけしコンビーフ 雪我狂流 三島忌やすっぽりぬけしコンドーム 同 追記②角川春樹でもう1句。類似というのとちょっと違うが。 たましひに遅れていのち泳ぎけり 角川春樹 『JAPAN』2005年8月 これを読めば、多くの人が次の有名句を思い出す。 飛込の途中たましひ遅れけり 中原道夫 飛び込んだあとの句、続編ということか。スピードは、(肉体)>たましひ>いのち。ややこしい。 ※このブログはトラックバック承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
>「知らない」気でいながら、どこかでその句を目にしていて、頭の隅に残っており、それが「三島忌の帽子の中の×××かな」のフレーズとして浮かんできたというケースだ。 そうなんです。これ、恥かしながら結構あるんです。自らの引き出し整理のために多作するので・・・。こういう時、原典とともに、類句であることをずばりと指摘していただけると本当に、本当にありがたいです。多作多捨の捨に混ぜるだけのことなので・・・。 私見ですが、角川春樹氏、多分摂津句を知らなかったのだと思います。おそらくどこからか指摘はされるはずですから、今後の態度表明が問題になるのではないでしょうか。俳人として自尊心を感じるような行動を期待したいと思います。 ちなみに私の師である石寒太は、以前河原枇杷男句の類句を誌上に発表してしまった際、指摘を受けたその翌月の誌上で類句であった旨の詫びと、発表句の抹消依頼を潔く誌上に載せていました。 朝比古さん、どもざんす。 しかしながら類句の範囲に統一見解はなかろうと思います。つまりどこまでが類句かの判断は、判然としない。そこがむずかしいところ。結局は本人の判断になりましょう。 類句は類句として、それとは別に、先行句を遊ぶ(オマージュも含め)ということは、もっとあっていいと思っています。 人の考えることはだいたい似ており、かつあまりに突飛すぎては他者に伝わらないしで、相当に独創的な表現と思っても単に自分が知らない(知りえない)だけで、すでにどこかでだれかが考え作品化しているかもしれないという可能性が常にある。
また、その言葉が、自分が考えたり書いたり口にしたものだったのか、それとも他者が発したものだったか判然としなくなってくる状態は、とくに年齢とともに増えてくる。 以上二つの理由により、ある類似句が意図的なものか偶然によるものかは、ほんとうのところは本人にしかわからず、あるいは本人にすらわからないこともあるでしょう。したがって類似句に対して他者が言えることは、どちらの作品がいいかどうかだけで、それだけ論じていればいいのではないでしょうか。 たまたま類似句が公表されたからといって、陳謝>作品抹消という後処理が「必然」とみなされるのはむしろ問題です。それは俳句の世界を貧相・硬直化するだけです。どうするかは作者ひとりの問題であって、他者がとやかくいうことではないでしょう。よけいなお世話です。 私自身ならどうするかですが、偶然の結果としての類似句ならば陳謝や取り消しはしませんね。
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