好き句70 齋藤朝比古

まなこ閉ぢ嚔の支度してをりぬ   齋藤朝比古

少し前にユースケさんのブログのコメント欄に、この句を引いた。記憶だけに頼って引いたからウソを引いたかも知れぬと、書き込んでいる最中から気はなったが、この句を読んだ合同句集が出てこない。仕事場は、シノギの資料、好きで読む本、句集などが未整理に山積みで、欲しい本は探してもなかなか出てこない。

気になったまま、今日に至り、西東三鬼全句集を探しているとき、ひょっこり出てきた。めくってみると、私の引用は大嘘であった。もしその引用を朝比古さんがご覧になっていたとしたら、ピープーピープーと、やかんの如く怒り心頭であったろう(演出です。実際の朝比古さんはいたって穏やかで鷹揚な方です)。

そこで掲句。二度確かめたから、今度こそ正確な引用だ(ユースケさん、ハイクマシーンさん、そういうわけなので、この句、こうです)。

そこでふたたび掲句。私が何も語ることはない。引用のとき、普遍的なモチーフの例句として挙げた。作者のこの「まなこ閉ぢ」の一瞬は、あらゆる場所、あらゆる場所、あらゆる人との交換可能だ。槍もって飛び跳ねているマサイ族だろうが、今日は何のビデオ借りて帰ろうかなと思案しているプーチン大統領の側近だろうが、また食べこぼして叱られている幼稚園児だろうが、この一瞬の「まなこ閉ぢ」の興趣は変わらない。

この句を読んだのはもう3、4年前か。読んだ瞬間、私は、また数センチ、ずぶりと俳句の深みにはまったのだと憶えている。

炎環新鋭叢書『青炎』(光書房1997)所収
[PR]
by tenki00 | 2005-12-28 19:22 | haiku-manyuuki
<< 彼等 オクンチ >>