議員秘書

選挙となれば、秘書は大忙しである。

父の葬儀の話は、前にここに書いた。葬儀が終わってから、家族と親戚で近所の人々に酒と食事を振る舞う田舎の風習のことも書いたが、そのときの親戚の中に、議員秘書の男がいた。従妹の旦那。その議員はもう亡くなったが、新幹線の駅を地元につくってしまったといわれた、当時の派閥の領袖。

議員秘書の男とはそれほど付き合いはなかったが、有能さはすぐにわかった。ビール瓶を両手にもち、座敷をめぐる物腰が「プロ」であった。空いたコップへの目配りは360度。変化球や160キロの速球をとらえるイチロー選手の眼がプロなら、議員秘書の眼もまた、酒宴の全員に配られる「プロの眼」である。当時、秘書だったその男は今は県会議員。ビールをついでまわる、その手腕がいまも衰えていなことを祈る。

一方、シノギですこし関わることになった与党代議士(小物であった)の秘書の陣容は、こちらが心配してしまうくらい貧相なものだった。国会議員は地元と東京(衆参の議員会館)の両方に秘書を置くが、特に、地元では、後援者からの依頼で雇い入れるケースも多いのだろう。働き口が見つからずにブラブラしていた若者が、事務所のデスクに所在なげに座っていたりする。背広が板につかず、代議士のスケジューリングはおろか、客の応対もできない。

その与党代議士の自慢の一つは、選挙カーにゴム長靴を入れていることだった。何に使うかというと、農道を走っていて、田んぼから手を振ってくれる有権者を見つけたら、すわ、ゴム長靴を履き、田んぼに入っていき、握手をするのだ。政治家の選挙中の仕事の50%くらいは「握手」ではないか。

ゴム長靴はいいけど、田んぼの稲を踏まないように、気をつけてね。

選挙に数億かかり、勝てば、任期中に、その数億の借金が返せるのだと、その代議士は言った(なんで返済できる? 議員の年俸は2000万程度なのに)。選挙に落ちたら、借金だけが残る。一家心中だ。だから、家族そろって生きるか死ぬかの戦いなのだとも言った。代議士の奥さんの仕事の50%は頭を下げることだ。その後、その代議士は落選した。一家心中したという話は聞いていない。がんばって生きてほしい。

政策を争う選挙へ。東京キー局の番組がそんなことを言っても、田舎では、いや東京でも、選挙事務所の振る舞い酒で赤ら顔になるオッサン連中、候補者に握手をされて喜んでいるオバハン連中で溢れている。選挙が終われば、陳情の嵐である。秘書は、こんどは「陳情捌き」の手腕を問われることになる。愚かな民衆と付き合う代議士、それを実務面で支えるのが秘書というわけだ。

民衆は、「政策」などという上品なもので、政党や政治家や政治と結びついているわけではない。また、いわゆる利益誘導といったことへ単純に還元することもできない。選挙も政治も、すこし変わっていくかもしれないけれど、あまり変わらない。べつに諦念でもなんでもなく。

権力は、民衆一人ひとりの心根に存する。つまり、草の根の権力。なので、事はややこしい。


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by tenki00 | 2005-09-01 00:05 | pastime
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