ガラスの天井(glass ceiling)という語が、ひところビジネス書や社会科学系の(やわらかめの)本によく登場しました。ここで説明してもしかたないので、この語を知らなくて興味のある人は、ググるなりなんなり。
温室の天井といふ行きどまり 長嶺千晶
温室のガラスの天井には空も見えますが、それだけではありません。育ちすぎたシャボテンや観葉植物が天井にぶちあたって、それより上に行けない。温室の中にいて、上を向いて、この句は詠まれています。俳句における「温室」という語は、イメージに流されやすい。その透明感とか硬質、冬の日射し、生い茂る植物。ところがこの句は、しっかりとした「目」で、理知的に景が捉えられています。
掲句は句集『白い崖』(2011年6月・文芸社)より。他に何句か。
巴里祭客船白き崖を成し
掻きときて卵に春の回りだす
舟虫の万の行方や音もなく
鹿啼くや水にひろごる空のいろ
金泥の文箱に月ののぼるなり
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